拾得物とは所有主が紛失した何らかの財産、あるいはある者が特別な権威を有する物で、かつ他人がそれを拾得したところの物です。 身元不明の子供とは、その血筋も、誰に帰されるのかも不明であるような、置き去られた、あるいは道に迷った子供のことです。
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22-拾得物と身元不明の子供● 拾得物とは:所有主が紛失した何らかの財産、あるいはある者が特別な権威を有する物で、かつ他人がそれを拾得したところの物です。● 拾得物の法的位置づけ:持ち主不明の物を拾得することは合法であり、かつそれを告知することはイスラームの美点の1つに数えられます。そこには他人の財産の保護や、それを拾得して告知する者が報奨を得ることなどといった福利が潜んでいます。● 紛失した財産は3つの種類に分けられます:1-平均的な人々の関心を惹かない物:例えば鞭、棒、パン1切れ、果物1個などで、このような物は所有主を見つけなくとも、拾得した本人の所有化に入れることが可能です。また拾得物として告知する必要もありません。しかしもしこのような物を拾得したら、施してしまうのがよいでしょう。2-小型肉食獣からは自己防衛出来るような類の家畜:例えばラクダや牛や馬や鳥類などで、これらは拾得することはありません。しかしもし捕まえてしまったらそれを保護し‐拾得者には補償義務が生じます‐、かつ告知しなければなりません。3-上記以外の全ての財産:例えばお金や道具や鞄、また羊や子ラクダなど肉食獣から自己防衛出来ないような類の動物類などのことです。これらのものはもし自分自身を抑制し、かつ告知することの出来る力があれば、拾得することが許されます。そしてその場合宗教を遵守し常識を備えた男性2人を証人に立て、その全てを大事に保管あるいは保護します。そして丸1年市場やモスクの玄関などの公共の場、あるいはその他の合法的な告知手段を用いてその拾得物の告知を続けます。● 告知後の拾得物に関して:1-丸1年告知して所有主が現れた場合、証拠の提示や誓いの言葉などを要求することなくその拾得物を返還します。しかしもし所有主が現れなかった場合、その拾得物の特徴や数量などを覚えておきつつ、それを自分の所有化に入れて好きに使用します。そしてもし後に所有主が出現して拾得物をその特徴通りに形容したら、その時は彼にそれを返還します。尚もしその時点までに拾得物が残存していなかった場合には、それと同様の物を返還するようにします。2-もし告知期間中に拾得物が全滅したり損失してしまったりしたら、拾得人がその管理において何らかの義務の遂行をおろそかにしたりせず、またすべきではないことも行ったりはしていなかった限りにおいて、それを補償する責任を問われません。● 拾得物に対して行うこと:もし拾得物が羊や子ラクダや、その他世話をせずに放ったらかしにしておけば損なわれてしまいそうなものなどであったとしたら、拾得人は所有者にとって最も都合のよいと思われる選択をします。その選択とは以下の通りです:① それを食べてしまい、その金額で換算する。② それを売却し、その金額を保存しておく。③ 告知期間の間世話をし、所有者が現れたら彼からその費用を請求する。ザイド・ブン・ハーリド(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は金銀の拾得物について訊ねられ、こう答えました:“その縛り口の紐から、入れ物まで(隅々に至るまでその特徴を)知るのだ。そして丸1年間告知をせよ。それでもし所有主が見つからなかったら、それを所有して利用するがいい。それは預託品として留め置き、ある日その所有主がやって来た暁には返してやるのだ。"また(預言者は)持ち主不明のラクダについて訊ねられ、こう答えました:“それはあなたには関係のないものだ。放っておけ。それには足も水袋(非常時に栄養補給することが出来る背中のこぶのこと)もあり、主を見つけるまで水を飲んだり木から食べたりすることが出来るのだから。"また(預言者は)羊についても訊ねられ、こう答えました:“それを保護するのだ。それはあなたかあなたの同胞のものであり、そうしなければ狼のものになってしまうだろうから。"」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[1]) 尚知的発達障害者や年少者の拾得した物は、その後見人が告知を請け負います。● ハラム(マッカ及びマディーナの聖域)における拾得物:ハラムで物を拾得するのは禁じられていますが、放っておけば損失や消失の恐れがある場合はその限りではありません。またそれを拾得した者は、ハラム内にいる限りそれを告知しなければなりません。そしてハラムを後にする時になったら、その拾得物は統治者やその代理などその方面の権威か、あるいは同様の役割を担ってくれるような者に託します。いかなる場合であろうと、ハラムで拾得物を自分の所有化に入れることは許されません。また告知せずに拾得することがあってもなりません。またハッジの巡礼者に関しては、ハラム内外を問わず物を拾得するのを禁じられています。イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「“アッラーはマッカを神聖なものにされた。それは私以前の誰にも、そして私以後のいかなる者にも解かれることはなかったのだが、ただ昼間の僅かな時間帯だけが私に許されたのである。(マッカにおいては)青草が抜かれることも、木が伐採されることも、狩猟の獲物が追われることもない。そしてそれを告知する者以外には、落し物が拾得されることもない。"そこでアル=アッバース(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:“装飾細工や埋葬の時(に使用するため)の白菖は別ですか?"すると(預言者は)言いました:“ああ、それは別だ。"」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[2]) ● モスクで自分の紛失物を大声で告知することに関して:アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「モスクで誰かが大声で自分の紛失物について訊ねているのを聞いたら、こう言うのだ:“アッラーはそれをあなたに返して下さらないだろう。モスクというのはそのようなことのために建てられたのではないのだから。"」(ムスリムの伝承[3]) ● 身元不明の子供とは:その血筋も、誰に帰されるのかも不明であるような、置き去られた、あるいは道に迷った子供のことです。● 身元不明の子供を保護することは:連帯義務[4]です。そしてそのような者を保護し、かつ育てる者には多大な報奨があるでしょう。● 身元不明の子供の法的位置づけ:イスラーム社会で見つかった身元不明の子供は、ムスリムの自由民と見なされます。というのも人は生まれながらにして自由なムスリムであるからで、そうではないことを証明するには何らかの証拠が必要であるからです。● 身元不明の子供を育てること:彼あるいは彼女を発見した者が正常な精神を備えた成人で、宗教を遵守し、かつ常識と信頼性を有する者であれば、身元不明の子供を育てることが可能です。そしてそれにかかる費用は、イスラーム国の国庫から拠出します。また身元不明の子供が何らかの財産を有していた場合、そこから彼あるいは彼女のために費やすことが出来ます。● 身元不明の子供の遺産と血債:相続人のいない身元不明者の遺産及び血債は、イスラーム国の国庫に入ります。また身元不明者が故意の殺人に遭ってしまった場合、イスラーム社会の統治者がその後見人代理となり、加害者側に対して報復の権利を用いるか、あるいは血債を要求するかの選択をします。尚血債を選択した場合、それはイスラーム国の国庫に入ります。● 身元不明者の親が出現したら:ムスリムであるかどうかを問わず、既婚男性、あるいは女性がその身元不明者の親であることを自認したら、その筋の専門家による検査を経た上で返還します。 [1] サヒーフ・アル=ブハーリー(91)、サヒーフ・ムスリム(1722)。文章はムスリムのもの。[2] サヒーフ・アル=ブハーリー(1349)、サヒーフ・ムスリム(1353)。文章はアル=ブハーリーのもの。[3] サヒーフ・ムスリム(568)。[4] 訳者注:共同体内の誰かがそれを行いさえすれば、共同体内の他の者の義務が免除されるような類の義務のこと。これに対し、サラーやサウムのような個人義務は個々に課されてきます。