イスラームは、人々がアッラーとそのしもべに対する諸々の義務を果たし、かつ平安と公正、慈悲の中で同胞として暮らすことが出来るように、売買の契約や婚姻、遺産相続や刑罰といった被造物の間のムアーマラートを定めました。ここでは売買取引の様々な形式や有効な取引となるための条件、またそこにおいて禁じられた物事などをご説明します。また生活の糧が豊かなものとなる諸要因についても、別枠を設けてご紹介します。
التفاصيل
ムアーマラート[1] 1-売買取引 ● イバーダートとムアーマラートの違い: イスラームは創造主と被造物の間の関係を取り扱うムアーマラートを、心と魂を清め純化させるところのイバーダートでもって組織立ったものとした、完全かつ包括的な教えです。 またイスラームは、人々がアッラーとそのしもべに対する諸々の義務を果たし、かつ平安と公正、慈悲の中で同胞として暮らすことが出来るように、売買の契約や婚姻、遺産相続や刑罰といった被造物の間のムアーマラートも定めました。 ● 契約の種類: 契約には3種類あります: 1-売買や有償賃貸、共同経営などのように、完全有償の契約。 2-贈与やサダカ(施し)、無償賃貸や保障のように、完全無償の契約。 3-貸与のように、有償と無償どちらの性質も備えた契約。というのも貸与はサダカである一方、貸した物と同様の物を返却するという代償を伴うからです。 ● 売買取引とは:所有目的で、財産と財産を交換することです。 ● 生産的行為における英知: ムスリムはいかなる生産的行為においても、そこにおいてアッラーの教えを実践し、その命の遂行によって主のお悦びを求め、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のスンナ[2]に則り、かつある物事の実現に際して達成されなければならない諸要素を実践します。こうしてアッラーは彼によき糧をお恵みになるのであり、また彼をよき方向へと導いてくださるのです。 ● 売買取引が定められたことに潜む英知: 貨幣や商品、その他物事は全て、人々の間に分散して存在しているものです。そして人の需要というものは他人の所有物と切っても切り離せない関係にあり、その獲得は何らかの代償を伴わずには達成されないのです。 そういった中で、人は売買取引の合法性によってその必要を満たし、目的を達成することが出来ます。もし売買が許されなかったら、人々は強盗や窃盗、詐欺や果ては殺し合いにまで至らなければならなかったことでしょう。 アッラーはこのような福利の実現と諸悪の撲滅のため、売買取引を合法とされたのです。そしてこのことはムスリム間のイジュマーゥ[3]でもあります。至高のアッラーは仰られました:-そしてアッラーは売買を合法化され、リバー(不法商取引)を禁じられた。,(クルアーン2:275) ● 売買取引の諸条件: 売買取引が有効となるには、以下の条件を備えていなければなりません: 1-売る側と買う側の両者共にその契約において満足すること。但し法的に正当な理由ゆえに強制される場合は除きます 。 2-売る側と買う側の両者共に処分権を有していること。つまり理性的に健常な、成人の自由民であること。 3-売買取引の対象となる物の利用が完全に合法であること。ゆえに蚊やゴキブリなどの利のない物や、酒類や豚肉などその利用が非合法である物、また死体(魚類とイナゴを除く)や犬のように、必要性に迫られた時だけしかその利用が合法と見なされない物の売買取引は出来ません。 4-売る者が、契約の時点で売買の対象となる物を所有しているか、あるいはその売却を所有者から許可されていること。 5-売買取引の対象が目視か、あるいはその描写によって契約する両者に明らかであること。 6-値段が明らかであること。 7-売買取引の対象が取得可能であること。ゆえに海の中の魚とか、空中の鳥といった物の売買は一種の詐欺であるゆえ、有効ではありません。 これらの条件は全て、売買取引の契約を結ぶ両者を不正やガラル[4]、そしてリバー[5]から守るためのものなのです。 ● 売買取引はいかに成立するか? 売買取引の成立には2つの形式があります: 1-口頭による形式:つまり売る側が「あなたにこれを売ります」とか「あなたにこれを所有させます」とかいった表現の言葉を用い、そして買う側が「買いました」とか「(契約を)受け入れました」とかいう表現の言葉を用いることです。正確な表現自体は習慣上よく知られているものに依拠します。 2-行為による形式:つまり互いに受領し合うことで、言葉を発さずに300円出してチーズを受け取るといったようなことです。これもまた両者がその取引に満足していることを条件に、習慣上よく知られているいかなる形をもとることが可能です。 ● ムアーマラートにおいて疑わしげな物事を避けることの徳: ムスリムはその売買取引や飲食物、その他のムアーマラートにおいてスンナに則らなければなりません。ゆえにその合法性が明白なものは手にし、取り扱いますが、その非合法性が明白なものは回避し、関わり合いません。一方そのどちらかはっきりしない物事に関しては、知らずに非合法な物事に足を踏み入れてしまわぬよう、そして自らの宗教と尊厳を損ねてしまわぬよう、放棄するよう努めます。 アン=ヌゥマーン・ブン・バシール(彼らにアッラーのご満悦あれ)は言いました:「私はアッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)がこう言うのを聞きました:“合法的なものは明らかであり、非合法なものも明らかである。そしてその間には、多くの者が知らない間際らしい物事がある。ゆえにそういった疑念の余地のある物事から身を慎む者は、自らの宗教と尊厳を守ることになろう。そしてそういった物事に陥る者は、禁じられた領域に足を踏み入れてしまうことになろう。それはまるで、禁じられた領域の周辺で(家畜が草を食む)番をする牧童のようであり、それらは今にもそこに入ってしまいそうである。実に全ての王には、(彼が定めた)禁じられた領域[6]がある。そして実にアッラーが禁じられた領域とは、かれの禁じられた物事である。そして実に体には、それさえ健全であれば体全体も健全であり、それが悪ければ体全体も悪くなるところの1個の肉塊がある。そして実にそれは、心臓なのである。"」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[7]) ● 合法か非合法か判断しかねる財産の用途: 合法か非合法化か判断しかねる財産は、出来るだけその使用による利益が少ない所に用いるようにします。 物事の中でも最も利益が大きい所というのはお腹の中‐つまり飲食物‐であり、次いで衣服など体の外面に接する物、そしてその次に馬や車などの乗り物が来ます。 ● 合法な糧を稼ぐことの徳: 1-至高のアッラーは仰られました:-そしてサラー(礼拝)が終わったら地上に散開し、アッラーのお恵みを求め(努力す)るのだ。そしてアッラーをよくズィクル(唱念)せよ。あなた方は恐らく成功するであろう。,(クルアーン62:10) 2-アル=ミクダーム(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「自らの手で稼いだ物によって食べる者より、良い物を食べる者はいない。アッラーの預言者ダーウード(ダヴィデ)‐彼に平安あれ‐は自らの手で稼いだ物によって食べていたのである。」(アル=ブハーリーの伝承[8]) ● 預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の教友たち(彼らにアッラーのご満悦あれ)は売買と商売に勤めていましたが、そこに現を抜かして至高のアッラーに対する義務やかれのズィクル(念唱や想起)をそっちのけにしていたわけではありません。あくまで至高のアッラーに対する義務を遂行した上で、商売をしていたのです。 ● 最善の生業: 稼ぐ手段は人によって異なりますが、農業であれ産業であれ商業であれ、最善なのはその者の状況に最も適し、かつイスラーム法に則したものです。 ● 働いて稼ぐこと: 人は食べ、家族を養い、アッラーの道において施すためにも、合法な糧を得るべく努力し、かつ人々に物乞いすることから身を慎まなければなりません。最善の稼ぎは自分の手で稼いだ物と、法に適った全ての売買取引なのです。 アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「私の魂がその御手に委ねられているお方にかけて。恵んで貰えるかどうかに関わらず人に物乞いなどするよりは、(糧を稼ぐために)綱をもって背中に薪を背負う方が良いのである。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[9]) ● 売買取引において寛大であることの徳: 人はアッラーのご慈悲を得るためにも、人々との関係において優しく寛大であるべきです。 ジャービル・ブン・アブドッラー(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:“アッラーは売買、及び(債務などの)履行において寛容な者を慈しまれる。"」(アル=ブハーリーの伝承[10]) ● 売買取引においてやたらと誓うことの危険性: 売買において、商品を捌くために誓いの言葉を発することは、利益の損失につながります。預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はこう言って、それを禁じました:「誓いは商品(を手早くさばく)には役立つが、(真の)利益を抹消してしまうものである。」(ムスリムの伝承[11]) ● 売買における正直さは祝福をもたらしますが、売買における嘘は祝福を消し去ってしまいます。 生活の豊かさへの扉を開く鍵とその諸要因 暮らしの糧をお恵み下さるのは偉大かつ荘厳なるアッラーですが、それと密接につながる鍵とその諸要因の主たるものを以下に挙げていきましょう: 1-偉大かつ荘厳なるアッラーに対してイスティグファール(アッラーに罪の赦しを乞うこと)し、罪の悔悟をすること: ① 至高のアッラーはこう仰られました:-そして私(ヌーフ:ノアのこと)は言った:「あなた方の主に、罪のお赦しを乞うのだ。かれこそはお赦し深いお方である。(そしてそうすれば、かれは)あなた方に天から豊かな雨を送って下さるであろう。またあなた方の財と子孫を増やし、あなた方のために多くの庭園と河川を御創り下さるであろう。」,(クルアーン71:10-12) ② また至高のアッラーは預言者フード(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)[12]について、こう仰られました:-そして民よ、あなた方の主に罪の赦しを乞い、かれに悔悟するのだ。そうすればかれはあなた方に沢山の雨を送り、あなた方に更なる力を与えられるだろう。だから(私‐フード‐がいざなうところのものから)背き、罪深い者となるのではない。,(クルアーン11:52) 2-早朝から仕事に励むこと: 暮らしの糧を求めるのなら、早朝から仕事に励むべきです。預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「アッラーよ、私のウンマ(共同体)を早朝において祝福して下さい。」(アブー・ダーウードとアッ=ティルミズィーの伝承[13]) 3-ドゥアー(祈願): ① 至高のアッラーは仰られました:-そしてわがしもべたちがわれについてあなたに尋ねたら、(こう言うがよい):「実にわれは(あなたの)近いところにおり、われを呼ぶ者の祈りに答えよう。ゆえにわれに乞わせ、われを信仰させよ。あなた方は正しく導かれることであろう。」,(クルアーン2:186) ② また至高のアッラーはこう仰られました:-マルヤムの子イーサー(マリヤの子イエス)は言った:「アッラーよ、私たちの主よ。あなたからのみしるしとして、そしてそれを私たちの内の最初の者と最後の者の祭日とすべく、私たちのために天から食卓をお与え下さい。そして私たちに糧をお授け下さい。あなたこそは最もよく糧を授けられるお方なのですから。」,(クルアーン5:114) 4-偉大かつ荘厳なるアッラーに対するタクワー[14]の念: ① 至高のアッラーは仰られました:-そしてアッラー(のお怒りや懲罰を呼ぶような事柄から)身を慎む者には、(アッラーが問題の)解決の糸口をお与えになろう。そして彼の思いもよらないような所から、糧をお与えになられる。,(クルアーン65:2-3) ② &nb